奇跡が起こった夜
―嬉しいを素直に受け取る勇気ー
ー突然の尾上右近ー
あなたは街中で自分の推しと遭遇したことはありますか?
「推しと遭遇するなんて、そんな奇跡あるわけないじゃん」
私もそう思っていました。

推し活を楽しんだ歌舞伎座からの帰り道、まさかの瞬間が訪れた。
現実に起こればいいな、と願ってやまなかった偶然という名の奇跡。
通り過ぎたドアから聞こえた「お疲れ様です」という声に、
なぜか振り返ろうと思った。
振り返ったら、そこに彼がいた。
まさか逢えると思っていなかった。全身がゾクゾク、心臓もバクバク。
「けんけん?──あ、ごめん、電話中?」
そう言った私に、彼は少し笑って「いいです、いいです」と返してくれた。
咄嗟に声をかけてみたものの、「どうする?どうする?どうすんの?」と私の頭はフル回転。
伝えたいことはたくさんたくさんたくさんあったのに、口から出た言葉は「頑張ってね」のたった一言。
それでも彼はしっかりと私の方を向いて「ありがとうございました」と挨拶をしてくれた。
たったそれだけのやりとりなのに、宿泊しているホテルまで全力スキップで帰れるくらい嬉しかった。
世界中に叫んで知らせたいくらい喜びが爆発していた。
もっと気の利いたこと言えたはずなのに、と悔しい想いもあるけれど、
偶然の出会いで「頑張ってね」と伝えられた非日常の瞬間を、
あの日から何度も思い出してはにやけてしまう。
推しと出逢えた喜びとともに、
あの瞬間はもしかるすると「私自身」が認められた瞬間だったのかもしれない。
ー偶然?それとも必然?―
小雨が降り、帰り道を急ぐ中で、たまたま振り返ったタイミング。
でも、偶然のひと言で片付けたくない何かを感じた。
「どこかで出逢えたらいいな」なんて夢のようなことを願っていたけれど、
本当にその瞬間は、突然やってきた。
奇跡は、特別に選ばれた人だけに起こるのではなくて
「信じ続けていた気持ちが届く瞬間」に起きるものなのかもしれない。
ー心の中の嬉しいを否定しないー
あの日から、何度もあの瞬間を再生しては喜びに浸っている。
「見てもらえてたのかな」「覚えてくれてたのかな」
そんな風に考えると、胸がふわっと温かくなる。
昔の私なら、こういう出来事があると、つい考えて気持ちを抑えてしまって
「偶然だよ」「幸せの前借りした?」「勘違いだよね」って思っていたはず。
でも、あの瞬間、世界の色が変わるほど感じた嬉しさは、
間違いなく、「私」のリアルな感情。
だからこそ、否定せずに、「嬉しかった」と素直に受け取ることは大事なんだと思う。
嬉しさを受け取ることは、自分を肯定すること
「頑張ってきた私」を否定しないことにもつながっているのかもしれない。

ー小さな奇跡が、自己肯定感を育てるー
あのとき振り絞って伝えた「頑張ってね」。
彼の「ありがとうございました」という言葉。
頑張って観に行った日々、ドキドキしながら書いた手紙、推し活の積み重ね。
たぶん、私が感じている以上に、ちゃんと彼に届いていた。
小さな奇跡・軌跡を「大したことない」と片付けずに、大切に味わうこと。
その積み重ねが、少しずつ「自分を信じるチカラ」を育ててくれているのかも。
私にとって推し活は自己肯定感を育てる時間。
自己肯定感って急に育つものではなく、
こういう小さな奇跡・軌跡を「受け取ってもいい」と
自分に「OK」を出すことから始まるのかもしれない。

誰かの優しさや、ふとした言葉に気づけるようになったのも、
「受け取ってもいいよ」と
少しずつ自分に「OK」を出せるようになったからなのかもしれない。
ー奇跡をしっかり味わった夜、そして明日へー
ホテルに戻って、湯舟に浸かりながら「あぁ、私って幸せ者だなぁ」と心の声が漏れた。
現実だったのか、夢だったのかわからないほど幸せで、何度も頬をつねって確かめてはいるけれど、
「よし、明日からも頑張ろう!」と、生きるチカラが静かに湧いてくる。
奇跡をしっかりと味わった夜は、
きっと「幸せを感じ取る準備ができた夜」だったのかもしれない。
仕事や日常でも、頑張っても報われないと感じることはある。
けれど、そんなときこそ、目の前にある「小さな奇跡」をちゃんと味わうこと。
それが、自己肯定感を育てる第一歩になるのだと思う。
結果を求めすぎず、今あるものを丁寧に受け取ること。
その時間が、「私」を認め、心を整えてくれる。

翌日も、小さな奇跡が続いた。
優しく声をかけてくれた巫女さん。虹を教えてくれたおじさん。
あの日の奇跡は、ちゃんと今につながっていた。
奇跡は、派手なものばかりではない。
心が動いた瞬間ひとつひとつが、もうすでに奇跡。
それらを丁寧に受け止めていくことが、「生きている証」になっていく。
あの夜の奇跡は、偶然ではなく、これからの私を励ますための――
未来からのギフトだったのかもしれない。
👉 次回「推しが教えてくれた自己肯定感の育て方」へ続く